歯科専門家に学ぶ

吉野歯科医院院長吉野 宏幸

略歴

  • 1999年
    広島大学卒業
  • 2003年
    東京医科歯科大学歯周病学分野大学院卒業
    よしの歯科医院開設
  • 2005年
    吉野歯科医院開設
  • 日本歯周病学会 指導医
  • 日本臨床歯周病学会 歯周病指導医
  • 歯周インプラント指導医
  • 東京医科歯科大学 非常勤講師
  • 臨床歯周病学会関東支部支部長

世界でも最も感染者の多い病気としてギネス認定された歯周病とは?

国民病とも言われている歯周病。Silent Disease (静かに進行する病気)とも言われ、痛みもなく徐々に進むため、気づいた時には手遅れになっていることの多い病気です。歯周病とはどのような病気なのか、そして、どのように予防すべきか、最新の研究データも含めてご紹介いたします。

歯周病とは

歯周病はポケットという歯の周囲の溝にプラーク(=歯垢。細菌の塊)が繁殖し、免疫細胞が排除仕切れなくたった時に、歯肉が腫れ、さらにその下の歯を支える、靭帯と骨が溶ける病気です。歯周病菌に対する免疫がもともと遺伝的に弱い患者も国民の5〜10%ほどいますが、多くは、喫煙、糖尿病、肥満などの生活環境が歯周病菌に他する免疫力を弱めて発症します。したがって、免疫の落ち始める30代以降に、大きく進行します。また、この歯周病は、歯を支える骨が大きく吸収するまで無自覚に進むことが多く、気づいた時には、手遅れになることが多い病気なので、発症前に、定期的な歯科医院への通院で見つけるべき病気です。さらには、歯周病自体が、様々な全身疾患(循環器系疾患、早産、糖尿病、誤嚥性肺炎など)と相互に関係しあっていることが解明されており、歯周病で死に到ることも大袈裟ではないことから、Floss or Die (フロスをしないと死にますよ)というキャッチコピーが全米中のマスコミに向けて、アメリカ歯周病学会から、発信されました。

歯周病の感染プロセス

歯周病菌は唾液を介して伝播します。数百種類の歯周病菌が発見されていますが、代表的な菌として 親から子供にスプーンや箸などを介して伝播するAa菌と、成人同士のスキンシップなどで伝播するPg菌があります。歯周病菌は唾液を介して口腔内に伝播するのですが、その後、口腔内に定着できなければ、体外に排除されてしまいます。また、仮に定着しても、その後、体の中に入り込まなければ感染しません。ただし、日本人の多くは、20代、30代の頃に歯肉に炎症があり、歯周病菌が定着しやすい環境にあるため、免疫が下がってくる30代以降に歯周病が発症してしまうのが、今の日本人の現状です。口腔内に伝播したとしても、定着しない、歯肉に炎症のない環境にするには、歯垢を残さないようブラッシングするのが基本です。日本人の約半数は歯ブラシのみでしかケアをしていないことが判明していますが※、歯ブラシだけで、十分に歯垢を除去できない方も多いので、フロス、歯間ブラシ、そしてウオーターフロスなどを併用したケアや、定期的な歯科医院でのクリーニングは必須です。清潔な口腔内環境にしておくことで、インフルエンザなどのウイルスが定着しづらくなることも、多くの研究で報告されています。
※平成28年厚生労働省 歯科疾患実態調査の概要より

歯周病を克服するには?

歯周病を克服するために、スキンシップを断絶して歯周病菌の伝播を防ぐことは、現実的ではありません。伝播したとしても、定着しない清潔な口腔内環境を保つことが重要で、そのためには、歯ブラシ、フロス、歯間ブラシ、ウオーターフロスなどによるセルフケアと、定期的な歯科医院でのクリーニングが必要です。それと同時に、定着したとしても感染させないように、全身の免疫力をあげることによって、世界でも最も感染者の多い病気である歯周病は予防できるのです。

ウオーターフロスとは

ウオーターフロスはブラシとの併用でブラシ単独よりも炎症を抑える効果があることが報告されており、歯周病や、今話題のインプラント周囲炎には有効だと思われます。インプラントは、歯に比べて、歯の周囲の溝であるポケットが深く、被せ物も磨きづらい形態になることが多いので、細菌が繁殖しやすいことから、ウオーターフロスを併用することをお勧めします。また、水による高圧洗浄なので、口腔内の修復物を傷つけにくいということも証明されています。現在歯間ケアを行っている方には、より効果のあるものを選んでいただきたいですし、歯間ケアをまだ行っていない方には、その重要性に気付いていただきたいです。

にしかわデンタルクリニック西川 博史

略歴

  • 1979年
    北海道北斗市生まれ
  • 2004年
    東京歯科大学卒業 東京歯科大学水道橋病院研修医
  • 2005年
    北浦和歯科診療所勤務
    埼玉歯周インプラントセンター吉野歯科医院非常勤
    茨木県植原歯科医院にて、水道橋病院矯正科教授のもとで矯正治療に関わる
  • 2010年
    桜新町に「にしかわデンタルクリニック」開院
    睡眠時無呼吸症候群、歯周病、インプラントのような
    高度技術の診療も積極的に行う

歯間に残りやすい“プラーク”(歯垢)、きちんと除去できていますか。

「毎日歯を磨いているから私は大丈夫」と言う人は多いですが、プラークが残っていて、歯周病や「う蝕(虫歯)」を引き起こしている事例は多くあります。 “プラーク”(歯垢)とは、歯に付着する細菌や代謝物の塊。そのままにしておくと歯肉に炎症を起こして歯周病を発症しやすくなり、また歯に穴が空く「う蝕(虫歯)」の原因にもなります。さらにメチルメルカプタンと硫化水素、ジメチルサルファイドを発して口臭を引き起こし、唾液のカルシウムによって硬化して歯石となってしまうため、小まめに除去することが大切なのです。

特に見落としがちなのが、歯間に溜まったプラーク。歯と歯の間はくっついているので、歯ブラシでの通常のケアだけでは除去しきれません。また下の前歯の近くは唾液腺があり、プラークをそのままにしておくと歯石になりやすい箇所。ここもまた磨き残しが多い箇所でもあります。

私が推奨している歯のケアは、毎食後の歯磨きと+αのケア。歯磨きにかける時間は10分〜15分程度、磨き残しのないように口内で順序を決め、歯ブラシを優しく細かく動かし、全ての面をブラッシングします。歯の表面や裏面を丁寧に磨き終えたら、次は歯間のケアです。全歯間にフロスか歯間ブラシを通したいのですが、自分でケアをするのはなかなか難しい。口の小さい方や不器用な方はより一層難しくなります。この点、ウォーターフロスは非常に有用だと思います。

健康な歯肉を保つのは、審美的にも大切なこと。

歯間のプラーク除去のためには全歯間のフロスという方法もありますが、フロスは力の加減が難しいのも事実です。歯間にフロスを通す際に力を入れすぎてしまうと、歯茎を傷つけ歯茎が下がり、審美的にも良くない状態に陥ってしまいます。高圧の水を使って洗浄するウォーターフロスは、歯肉を傷つけずにプラークを効率よく確実に落とすことができます。

またウォーターフロスは、矯正中のケアにも薦められます。矯正中は矯正器具を避けて口腔ケアをしなければならないので、歯間の虫歯が頻出します。細くて小さい歯ブラシの利用を薦めていますが、ウォーターフロスは上下に通す必要がなく側方から水を出すため、矯正器具に干渉せずにプラークを除去することが可能です。矯正中の方にはぜひ、取り入れていただきたいと思います。